2013年10月15日火曜日

「パリ、テキサス」不器用な愛の映画



愛しているのに一緒にいることができない、、、
これは不器用で哀しい家族の映画だ。

家族を愛する男がいる。
彼は愛がとても強い。でもその強い愛のせいで逆に家族を不幸にしてしまった。
心を痛めた男は、やがて愛する家族から一人去っていく。
 

パリ、テキサス
ヴィム・ベンダース、ロードムービーの傑作である。

この映画をはじめて見たのは19歳の時。三鷹の名画座だ。

記憶を無くし行方不明になっていた一人の男、トラビスと、まもなく10歳になる息子が、6年ぶりに再会した。
離れ離れになっていた3人の家族。
トラビスは、息子と共に別れた妻を探す旅に出る。

台詞は僅か。静かに進行するストーリーに、時折ライ・クーダーのスライディングギターの音が、登場人物たちの震える心の叫びのように聞こえてくる。

ラスト、一度は離ればなれになった家族は、再会しその絆を確かめ合う。でも彼は再び妻と子の前から去ってしまう。
トラビスが妻と子から去って行くことも、はじめて見た時は気付かなかったかもしれない。
まだ子供だった僕は、正直この主人公トラビスがとった行動がよく判らなかった。


やがて家族を持ち、自分の命が、自分だけのものではないこと。自分よりも大切な人がいるということを知った。
いつかトラビスが家族の元を去った訳が判るようになっていた。

飾り気がない、恐ろしく淡々とした地味な映画。
でもこの映画は、僕の最も愛する映画の一つになる。
そして今、このトラビスの静かな苦しみを一層痛くリアルに感じることができる。

トラビスは自分の理性をコントロールできない男だ。
時に激興して家族を傷つけてしまう。
それでも家族は、トラビスと一緒にいることを望んでいた。
トラビスも、深く家族を愛していた。
再び家族と暮らし始めることで、また昔のように家族を傷つけてしまうかもしれない。。。
だからこそ、家族を傷つける自分を許せなかった。
そして再び家族の元から姿を消す。
それが不器用なトラビスが唯一できる精一杯の愛情表現だったのだ。

あまりに勝手だ!
自分勝手過ぎる。
家族を捨てる。よくいえば家を出て行く。
愛する者の前から、去らなければならない。
それが家族の幸せを得るための一番の選択だなんて、、、
愛し過ぎるために、愛する家族と一緒に過ごすことができないとは、なんて哀しい話なんだ。
家族もまたトラビスのことを愛している。
だから妻はトラビスが家族の元から去ることを知っている。
あえて止めない。いや、止めることができないのか。
家族が別れ離れになる、それが家族にとっての一番のハッピーエンドだなんて、あまりに切ない。
この映画のトラビスの旅は、家族を壊したことへの彼なりの償いであり、最後の別れは、妻と子を愛するが故の、身勝手だが勇気ある決断なのだ。
それはトラビスにとってハッピーエンドでないだろう。
愛が強すぎるトラビスの生活にハッピーエンドは訪れない。
この先、自分の知らない地球のどこかで、妻と子が強く逞しく生きていければ、それでいいのだ。
自分自身の気持ちや幸せよりも、家族の幸せを何よりも優先しようとするトラビスの勝手で一途な愛、男の意地にぐっと来る。
己の幸せは、自分の内側ではなくて、自分の外側にある。
泣ける。
たまらないほどに、、、

人生は杓子定規にはいかない。
これは不器用で美しい愛の映画だ。
トラビスの我がままな愛の強さを否定できない。

じっと黙って見て、静かに泣きたいなら ───
パリ、テキサス」にしやがれ

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