2014年1月16日木曜日

「ペーパーボーイ 真夏の引力」のけ反るほどにおぞましい挑発的な映画



挑発的な映画 ───。
かってこんな挑発的な映画があったろうか。
下品。。。そして、あまりにおぞましい。
物語が始まり、何かノドにつかえたまま長時間、強制的に最後まで見せられたようだ。
なのに、見ることが嫌じゃない。嫌というより、どうしても目が離せない。
それはまるで陰部のように、時に猛々しく熱く、時に見るのが恥ずかしい、けれど目の前にあれば目が離せなくなる。
何かこれまでに感じたことがない妙な居心地の悪さを感じる映画だ。
嫌なことをされ続けているのに、実はそれを同時に快感に感じているとしたら、これはマゾヒスティックな体験だったのかもしれない。

ストーリーは、いい話ではない。散々な話だ。
積み重ねられるシーンは恐ろしく深刻だが、面白いのは、その深刻なシーンを言葉にすると、びっくりするほど馬鹿らしくて笑ってしまえるようなシチュエーションであることに気付く。そのキャップの蓄積が、やがて爆発する!それが、この映画が今までに見たことがないような、けだるく且つじっとり熱い独特の緊張感、面白さを醸し出しているのだろう。しかも事件の当事者のように登場人物のこっけいな様を見守ることになる観客は、その馬鹿げた展開にも関わらず、登場人物のあまりに真剣なアクション、リアクションに、笑うことができない。唖然として、ただ我慢して見守るしかないのだ。(このシチュエーションはコーエン兄弟の映画に似ているが、違いを上げるとすれば、その真剣でこっけいなことをする様を笑えずにドン引きし続ける面白さとでも言おうか)

具体的なシーンで言えば、例えば、ニコール・キッドマンが、死刑囚のジョン・キューザックと面会する時、二人は離れたまま触れることなく、性交を遂行する。(離れたまま、一切交わることなくやるセックスというものがあるのだ!)具体的には、ニコールを視線と言葉とオーラで挑発し、セクシーな態度をさせながら、Jキューザックがマスターベーションをするというもの。
中年の金髪女性がボディコンで男を挑発、圧倒するというニコールは、恐ろしくも美しく、下品だがセクシーである。画面から匂い立つ汗と体臭、精液の匂いが見るものを困惑させる。わたしたちは、それを傍らから見ている主人公同様に、二人の凄まじい情念に圧倒されて、正視することも、目を背けることもできず、気がおかしくなりそうになる。(ニコール・キッドマンは、この一歩間違うと見ることさえおぞましい危険な人物に品格を与えていて、とにかくその演技が素晴らしい。こんなスゴイ役を演じるだけでも凄いが、まさにニコールは女優!足下にひれ伏します!!)

もう一つ、印象的なシーンがビーチ。主人公の青年がくらげに刺されて、アレルギーでショック状態となるが、ニコールがおしっこを掛けて救うというシチュエーション ───。
くらげの毒で死にかけた青年を、おしっこのアンモニアで中和することで、命を救ってくれるのだが、
「倒れた男にまたがり、命がけでおしっこをかけるニコール・キッドマン」
、、、と聞くだけでめまいがする。みたくないけど、見てみたい。ニコールが、本当にそんなシナリオを演じてくれるのか? 合成でもそんなことお断りだと言われるんじゃないかと、極東のしがない観客が詰まらない心配をしてドキドキしてしまう有様である。また、そのあまりに格好悪い"くらげおしっこ事件"を、主人公の父で地方新聞のオーナーが、記事として掲載してしまうバカバカしさはもう卒倒ものである。

だが、話が進むにつれ、映画で起きる事件は、益々絶望的なものになってくる。その事件がバカバカしいほど、笑いが引きつり、恐怖に陥る。事件の核心は、プアホワイトが住む森の奥の沼地に秘められている。沼に入っていくだけでも嫌だが、その薄気味悪いじめじめした沼地で起きる殺人事件。。。クライマックスの事件は、あまりに悲劇的で、主人公は生きることに絶望するほどの壮絶な体験をすることになる。

うだるような真夏の夜、暑くて気がおかしくなってくるような気分な時は、この「ペーパーボーイ」をオススメする。
あなたは世界の暑さを忘れ、言葉を失い、ただただ途方に暮れるだろう。
そして、わたしたちが普段日常で行っているあやゆる行為は、あまりに些細なことで意味がなく、いっそ全部捨てて、沼地にでも引っ越してしまったた方がいいかもしれないと思い始める。誰かに殺される前に、いっそ自ら気が狂ってやるのだ。素早く、そして正確に。。。

夏の夜、言い知れぬ絶望にどっぷり浸りたい時は───、「ペーパーボーイ 真夏の引力」にしやがれ!




追記1
監督はリー・ダニエルズ。この監督さんの映画は初見。ほか役者さんは、マシュー・マコノヒー。主役のザック・エフロンも頑張っている。

追記2
映画とは関係ないが、僕からノーベル文学賞を贈りたい開高健の小説「夏の闇」も、このペーパーボーイ観賞に似たようなエモーショナルをかき立ててくれる。つまり眠ぐるしい夏の夜に最高にオススメの一冊である。今は冬だけどね。。。(こちらはすこぶる高貴な一品です)

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